2012年4月19日木曜日

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目標値としての観光客数の限界

[カテゴリ: 観光地マーケティング » 目標設定編] エントリー: 2009-06-29

観光統計の整備が進むことによって、我が国でも、観光客数を、ちゃんとした単位に分けて把握する事が可能となってきています。

一方、近年の「計画」は、具体的な定量値を目標として掲げる事が多くなっています。これは、アメリカ型の計画モデルの影響だと思いますが、何かしらの目的に対して、何かしらの行動を行うのであれば、その行動の結果(アウトカム)として何がどの程度得られたのかを検証し、行動の修正などにつなげていくことが必要という考え方が背景にあります。そのためには、しっかり「測ることの出来る」もの、定量的なデータを目標として掲げるわけです。

例えば、ビジットジャパンキャンペーンでは、「2010年に訪日外国人旅行者数を1,000万人とする」というのが目標です。これによって、その目標に対して、現在、どの程度の進捗となっているのかが一発で解ります。従来は、単に「訪日外国人旅行者数の増大に取り組む」といった目標であった事を考えれば、このような目標を設定することの効果がとても大きいことが解るでしょう。

観光統計が整備され、各単位別の観光客数がわかるということは、観光計画、戦略において、その目標値、計画実施中の達成度を測る指標としてそれらを活用することが出来ると言うことになります。

ただ、ここで新たな課題も生じ始めてきています。観光客数が、果たして、地域での観光振興の「目的」に合致した指標なのか?という疑問です。


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目標というのは、それだけが独立して有るわけではなく、その上位に「目的」があります。場合によっては理念と呼んでも良いでしょう。この目的は、地域によって、異なってきますが、多くの場合は、「地域経済の振興」に集約されるのではないでしょうか。(もちろん、地域の自然や文化と共生が条件となるなど、地域経済振興だけが独立した目的にならないことが一般的です)

目標値というのは、目的の達成度を測る指標ですから、目的と強力なリンクを持っていなければ行けません。では、「地域経済の振興」という目的と、観光客数という指標はどの程度のリンクを持っているのでしょうか。

地域経済の振興に重要なのは、何よりも、地域の収入となる観光消費であることを考えれば、両者に一定程度以上のリンクがあることが想定できます。しかしながら、消費の総額は、観光客数×単価によって算出されるということに注意が必要です。仮に単価が一定(分散が低い)であれば、単価を固定値として見ることが出来ますが、日帰り客と宿泊客では大きく異なります。さらに、日帰り客でも、滞在が半日以上に達するような旅行者と、数時間の立ち寄り客では、その消費額も大きく異なります。

例えば、地域でイベントやお祭り、例えば花火大会のようなモノを開催した場合、多くの観光客を呼び寄せることが可能ですが、観光客の滞在時間は2時間程度、単価では1人で1,000円いくかいかないかという程度でしょう。


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さらに、その波及効果までを考えれば、観光客×単価×域内調達率という3つの変数が出てきます。域内調達率とは、従業員や各種資材を域内(これは地域によって設定はそれぞれで、市内で有る場合もあれば、県内という場合もある)からどの程度、調達しているのかという指標です。これが高ければ、それだけお金が域内で回るようになり、波及効果が高まることになります。

イベントやお祭りなど、短期間に、多量な人が来るモノは、一時的に地域経済の規模を超えるため、テキ屋さんなどの存在を考えれば解るように、域内調達率も低くなります。すなわち、3つの変数のうち、2つが、通常とは異なることになるのです。

ただ、観光客数(人回でも人日でも)だけに注目していると、こうした部分は見えてきません。しかも、宿泊客数よりも、こうしたイベントなどの参加者の方が、人数が多いことが一般的であることを考えれば、その問題がより深刻となることが予想されます。

このように、地域経済振興という目的に対する目標値を「観光客数だけ」で設定することは、非常に危険なのです。

さらに、観光客数を目標値とするということは、通常、人数の増大をその目標とすることと同意語ですが、そうした目標が果たして今日的かという疑問があります。


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バブル期以降の我が国の社会経済環境は、基本的に、低成長もしくは微減、マイナス成長です。少子化が進み、総人口も減少に転じた現在、「人数の増大」を目標として掲げるということは、多くの観光地にとって重すぎる目標値となりましょう。こうした目標値の設定は、地域委おいて、例えば、広告宣伝費を大量に投入するとか、大幅な値引きをするといった行動をおきやすくします。これは、本来の地域経済振興という目的が薄れ、人数の増大が目的化してしまっていることの現れです。

現在のような社会経済環境においては、人数を増大させることではなく、人数を維持することが重要であるはずです。それも、結果としての人数ではなく、今来ている観光客に来続けてもらうということです。

需要側から、市場規模を考えると、参加人数×旅行回数×1回あたりの消費単価によって示すことが出来ます。前述のように、人口が減少することを考えれば、参加人数はむしろ減っていきます。さらに、経済状況が改善されなければ、旅行回数や1回あたりの消費単価も減少することになります。

地域側では、旅行人数も、消費単価もほとんどコントロールすることは出来ません。地域側が唯一関与できるのは「旅行回数」だけです。減少するといってもいきなりゼロになるわけではなく、より限られた回数となるということだからです。その限られた旅行の訪問先として、自地域を選んでもらえるかどうか。これが、重要な要素となるわけです。


そこで、重要となってくるのは、どうすれば「選んでもらえるのか」ということですが、我々の調査(観光集客地における顧客満足度の活用に関する調査研究,2008)では、すでに3割弱の来訪者は、「以前来て良かったから(28.8%)」来訪しており、それに関連した口コミとなる「友人知人に勧められて(7.6%)」と合わせると約35%に達します。これに対し、「行ったことが無いので」は14.7%に過ぎません。

これは、現在、存在している観光客に来続けてもらう事がとても重要であることを示しています。

実際、観光よりも市場の縮小が先行的に進んでしまったスキー市場においては、「以前来て良かったから」と「友人知人に勧められて」をあわせて8割近くに達するスキー場がある一方で、合わせても4割にも達しないスキー場も少なくありません。これは、市場が縮小すると、さらに「自身の経験」や「口コミ」が重要になる事を示すと共に、スキー場によって大きな差が出てくることを示しています。前者のスキー場は、普通の経営をしていれば、来年度も今年度の8割程度のスキーヤーを確保できるのに対し、後者は広告宣伝や割引などをしなければ集客が出来ず、体力差はさらに開いていくことになります。

同様に、同じ1,000万人の観光客を擁する観光地において、リピーターがその内800万人の観光地と、300万人しか居ない観光地では、将来的な持続性において、全く異なる状態にあることが解るでしょう。

このように、観光客数は、いろいろな要素を代弁することが可能な指標であるものの、それだけに依存することは、施策の実行や評価において大きな問題となることが少なくありません。

観光振興が、地域の振興と密接に考えられるようになった現在こそ、目標値のあり方についても検討を進めていくことが必要となっています。



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